それってよくあること……だよな?
R-18

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第8話 己の愚かさに笑ってしまう

B-01(ブラボー1)、出る!」

 そう言ってオレはホバーシステムを作動させ機体 F-22(ラプター)を発電所に向けて発進させた。機体の腰をかがめ、まるでしゃがんだような姿勢でだ。

 ただし真っ直ぐ進むなんて馬鹿なことはしない。もし向こうにに狙撃兵がいたらイチコロだからだ。だから右へ左へと大きく弧を描くように進んでいく。さしずめスキーのスラローム競技の選手といったところだが、それとちょいと違うのは旋回のタイミングをずらしてワンパターンにならないように気をつけてることだ。そうでなけりゃ単なる狙撃訓練用の移動標的で終わっちまう。

―― とにかく向こうさんの様子が何もわからないんじゃ話にならんよ。

 戦術機甲機の兵器オプションは様々なものが用意されてる。そこには基本装備のアサルト・ライフル、今オレが装備しているサブ・マシンガン以外にも対物ライフル、汎用機関銃、スナイパー・ライフルやミサイルランチャーといったものまであるし、拠点防衛ならそのすべてを持ってると見ていいだろう。

 さっきはああ言ったが、こちらから仕掛けるにしても、相手の数が多いからってただミサイルを打ち込めばいいってもんじゃない。

 対空ミサイルランチャーは機体の両肩部(もしくは片側だけ)に装着するタイプで3発装填されてる。これは機体に発射機ごと装着するからミサイル自体が小型、その分弾頭も小さく搭載する燃料も少ないから精々5kmほどしか有効射程距離がない。文字通り対空砲撃用の兵器だ。

 一方、肩に担いで撃つ単発式対地ミサイルランチャーってのもある。こっちの方が射程も長く破壊力も大きいが1発ごとの使い捨てというデメリットがある上に、一応自動追尾装置付きだが、ライフルに比べて弾速が遅いから戦術機甲機でなら対処がしやすい。なので本来は通常歩兵もしくは施設破壊用の兵器だ。

 いずれにしても面制圧できる、もしくはするための兵器じゃないし、そもそもそんなに大量のミサイルは装備(コンテナ)の中にない。もしも全部デコイだったら、いやデコイでなくともそれこそ無駄玉だ。

 なのでこちらからミサイルを撃つことはない。もし相手からも撃ってこないからと言って装備してないという理由にはならないのもわかりきった話だ。

 そうして長距離兵器はミサイルだけじゃない。スナイパーライフルやもっと破壊力の大きい対物ライフルもある。だから闇雲に突っ込んだらそれこそライフルの餌食だ。

 連邦軍の戦術機甲機によるスナイパーライフル狙撃の最長記録は1,062m。これはもはや伝説で、同じ狙撃手も2度はできなかったって話だ。
 そうして重装機動歩兵は全員が前衛、後衛のどちらもできるように訓練される。だから誰もがスナイパーライフルも扱える。最低でも800m以上の狙撃は成功させるし900m級もそこそこにいる。

 これ以外の兵器の射程はもっと短いから、敵から距離をとっていれば直撃を受けるということは少ない。

 それに辺境惑星の守備隊に配属されてる戦術機甲機のパイロットは、重装機動歩兵訓練学校の卒業要件の合格点に達しなかった者がなるって話だから向こうにはそこまでの腕はないかもしれない。

 それでも油断してたら命はいくつあっても足りなくなるのは当たり前の話だ。

―― こんな見通しのいいところへ飛び出すなんて、我ながらどうかしてるよ。

 そうぼやいてはみるものの、「任務遂行」のためにはまずは偵察するしかないはずなんだが。

―― にしても、偵察っていう意見が出なかったのは驚きだよ。

 そんな事を考えていたら B-04(マイキー)のボヤキが聞こえてきた。

『もう少し近くで隊列組んでりゃ、ジェットストリームアタックができるのによ』

 オレの見るところ、マイキーは陽気で細かいところを気にしない前向きな男だ。その分少々大雑把なところはあるが、軍人としてそれが欠点になるほどではないと思う。オールラウンドにこなせるが前衛向きだろう。
 一方のリーはマイキーとは正反対で寡黙で緻密な男。本来なら遠距離狙撃の方が得意なタイプ。
 演習でこの2人にコンビを組ませると上手くハマった時は最高の働きをするが、そうでない時は全く役に立たないという、まるでギャンブルのような2人だ。
 当然今回は上手くいくことを想定して、というか、他の分隊員、メイ・リン、ジュン、デボラの3人とはあまりコンビネーション訓練をやってないから、よくわからないことが多い、という理由で2人を起用したってことだ。

 オレはマイキーの戯言に呆れたように応じた。

「何バカなこと言ってんだ。それよりセンサー・マーカーをよく見てろよ。動きがあったらそいつは本物だぞ」

 オレの現在地点は発電所からおよそ1km。メインディスプレイには暗視カメラの映像が写ってるが、そこに守備隊の戦術機甲機の姿は認められないし、センサー・マーカーの光点に動きもない。

―― まさか全部が全部デコイってことはないよな……。

 それならそれで簡単に目標に到達できるからいいが、そう甘い話じゃないはずだ。

 発電所に守備兵力がいるとして、仕掛けてこないのはどういう訳か。機体数が少ないのか、物資が不十分なのか、こちらが最新鋭機に乗った正規兵だからか恐れをなしたのか。
 もっともこの距離だとスナイパーライフルか対地ミサイルぐらいしか有効な兵器はない。それが存在しないってことはないだろうが、これだけ高速で右へ左へと動いてると当てるにはそれなりの腕が必要だから、もっと近づくのを待ってるのか。

 さっきは確かに「真面目に戦ったポーズをとる」とは言ったが、命令は目標の制圧。だったら最終的にはそれは遣り遂げないとならない。だからってこっちに被害が出たんじゃ話にもならんが。
 向こうが動かないなら、こっちはさっさとやるべきことをやって命令を遂行させて帰るまでだ。

―― にしても施設の配置図すらないってのは聞いたことがないぜ。

 制圧目標の中でも絶対に破壊しちゃいかんもの、ある程度は許されるもの。それは外から見たってわかるはずがない。
 もしも全部壊していいんなら、初めから空爆すれば済む話だ。
 そんな状況で制圧しろってんだから突拍子もない命令だ。

 そんな事を考えつつ、蛇行しながらも目標へ近づきつつあった。

―― ちょいと距離はあるが仕掛けてみるか。

 そう思ったオレは2磯に命令した。

「今から一気に目標に接近する。お前らは迫撃砲を撃ってみろ」

 アサルトライフルは36mmチェーンガンと105mm榴弾による迫撃砲をドッキングさせたもの。この迫撃砲はライフルに一体型とするためにコンパクトに作られてる。その分砲弾が小さくその弾薬も少ない。だから射程は短いがそれでもうまくすれば600mくらいは飛ぶからマーカーの最前列にはギリギリ届くだろう。

『迫撃砲をか? てか、大丈夫なのか?』

「最前列は多分デコイだ。だから大丈夫だろう」

 それはある意味、根拠のない勘だが、少し自信もあった。いくらなんでもマーカー全部が実機のはずはない、と。
 もっともまんまと相手の術中にハマったらいい笑いもんだ、では済まないが。

「マーカーの光点目掛けて何発か撃ってみろ。デコイならそのまま消えるし、実機なら動き出すさ」

「行くぞ! カウントダウン3、2、1、GO!」

 そうしてオレはスロットルを全開にした。

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