性なる剣を持つ者 R-18

 この話は『聖なる剣を持つ者』の元の展開を書いたもので、元々はこういう話だったというものです。
 したがって登場人物、設定、世界観はこちらが先で、今の『聖なる剣を持つ者』とは若干異なってますのでご注意下さい。

 なお本話はR-18です。十八歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。

 大陸の北東部に存するイステラ王国。「剣の国」「武の国」と呼ばれるこの無骨な国に、いかにも華やかな男がいた。否、華やかなのはその周囲だけであっ て、本人は至って地味な青年であった。その名はレイナート・フォージュ・ルクルス・リンデンマルス、十八歳。父であるイステラ国王の庶子で、一年ほど前に 大貴族、リンデンマルス公爵家を継いだ青年である。
 その領地はイステラ王国最大の版図を持ちつつも、血の繋がらない先代の放漫のお陰で借金まみれとなっており、その領地経営はすこぶる難しい、と思われていた。
 ところがいざ蓋を開けてみると、それがなかなか順調に借金を返し、周囲に驚愕の目で見られていたのである。
 それもさもありなん。あれだけ多くの有力貴族の娘 ― 海外の王女も含めて ― を正妻に持っていれば相当の援助が見込めるだろう。もっとも、その後宮 ― というほど立派なものではないが ― の維持費も相当かかるので、生活は決して派手には成り得なかったが……。


 レイナートが領地の主城カリエンセス城で目覚めたある朝のことである。
 この日レイナートの正室の全員が非常に機嫌が悪かった。
 いつも通り夜明け頃に目覚め食堂へ顔を出したレイナート。食卓には既に十数人もの美しい女性達が席に着いていた。その一人、最もレイナートに近い席のセーリアが声を掛けた。

「おはようございます、レイナート殿。ここ数日随分と静かな夜をお過ごしですね?」

 言葉遣いは至極丁寧。だが、口調は冷たく抑揚のない声である。

「はあ、申し訳ございません……。」

 レイナートが項垂れたように頭を下げた。

 セーリアは前イステラ王の正室で、夫亡き後王太后の地位に昇り、義弟である現イステラ王アレンデルの私生児であるレイナートを、アレンデルの依願により王宮にて養育してきた。
 しかし昨年レイナートがリンデンマルス公爵家を継いだのを期に王太后の地位を降り、レイナートと共にリンデンマルス公爵家の領地に移り住んだのであった。
 セーリアは養母として様々なことをレイナートに教え育ててきた。そうしてその一つとして、レイナートに性の手ほどきもしたのであって、まさに親子ほど歳が離れている二人にもかかわらず、レイナートの愛人第一号で……。否、この言い方は正確ではない。
 イステラでは公式には側室を持つことが許されぬ。したがって表向きセーリアはあくまでもレイナートの養母であった。
 四十も半ばとなりながらいまだに若さ、美しさを保つセーリアは、王妃時代も王太后となってからも、清楚で慎ましやかな女性として高い評価を得ていた。し かしながら、このリンデンマルス公爵家の領地に来てからはその本性を現し、日頃妖艶な色香を振りまき、いまだにレイナートと夜を共にすることがあるので あった。


「そうですわ、レイナート様。最近はちっともお運び下さらなくて……。」

 やはり非難がましくレイナートに声を掛けたのは、紛うことなきレイナートの正室第一号、国内有数の貴族であるフラコシアス公爵家の姫であったクローデラである。
 その透き通るような銀色の髪に抜けるような白い肌のクローデラは、まるで生きた人形かと思わせるように美しく、イステラ三大美姫の一人に数えられていた。
 初めて二人が会ったのはレイナートの弟アレグザンドの立太子を祝う宴の席。その後、フラコシアス公爵家の茶会に招かれたレイナートは、庭を案内してくれたクローデラと男女の関係となり、二人はその後時を移さずして正式に婚約、婚姻の義を結んだのであった。
 クローデラはレイナートのもとに輿入れしてきた時は物静かで大人しい少女であった。しかしレイナートの正室となった後、レイナートが次々と多くの正室を 娶るようになり、それに負けまいとして強さを発揮するようになった。他国の公女さえもいるレイナートの正室の中で第一夫人の威厳を見せ、今では数多《あま た》いるレイナートの正室の頂点に文字通り君臨していた。


「何かお気に召さぬことでもありまして?」

 クローデラの次にレイナートに尋ねてきたのは、第二夫人のコスタンティアである。
 イステラ国内で最も裕福な家の一つと知られるアトニエッリ侯爵家。その姫であったコスタンティアは、見目麗しき両親にも勝る、イステラ第一の美姫として 知られ、また、その聡明さは比類なきものと言われており、コスタンティアを娶ることが出来る男など居はしまいとまで言われていたほどである。それが第二夫 人で甘んじているのだから、このレイナートという青年、並みの男ではないのだろう。
 出会った当初は庶子が大貴族家を継ぐなんて、とレイナートに反感を持っていたコスタンティア。
 しかしいつしかレイナートを憎からず思うようになり、しかも、フラコシアス公爵家のクローデラ姫がやはりレイナートを狙っていることを知り、急ぎ茶会を催しレイナートを虜にすべく画策した。
 しかし結局はフラコシアス公爵家に出遅れ、第一夫人の座を勝ち取るには至らなかった。だが、それでも他の男に嫁ぐよりははるかにマシということで決心し、レイナートに輿入れしたのである。


「言いたいことがあるのならはっきり言いなさいよ。」

 きつい目つきでそう言ったのは第三夫人のミュリュニエラ。イステラとはレギーネ川を隔てて国境を接するエベンス大公国の第一公女である。
 レイナートが弟アレグザンドの立太子式に使者を送ってくれた各国に対し、父王の命令で答礼の旅に出た時に出会い、出会って直ぐにこれまた男女の関係になって輿入れが決まったのであった。
レイナートの夫人となりながらも、いまだにエベンスの王位継承権を持っており、その為もあって気位の高いことこの上ない。
 やはり見目麗しいのだが、人前では歯に衣着せぬ物言いをしてはレイナートを困らせ、そのくせ二人きりになると、急にしおらしくなってデレデレするというなんとも扱い難い女性である。


 その隣で笑顔で頷いているのは、アレルトメイア公王家から輿入れしてきた第四夫人のエメネリアである。レイナートの父王の姉を母に持ち、レイナートとは 従姉弟に当たるこの女性は、レイナートがアレルトメイアのミルストラーシュ公爵家を継いだ時に、レイナートのもとに降嫁してきた公女である。本来であれば ミルストラーシュ公爵家の屋敷で暮らすのが筋であろうに、レイナートがイステラに留まっているので業を煮やして引っ越してきたのであった。
 エメネリアは気さくで明るく、笑顔が素敵な陽気な女性だが寝室では豹変し、セーリア以上に妖しい微笑を見せつつレイナートを導く年上の人である。
 因みにミルストラーシュ公爵家の屋敷は無人に出来ないので、レイナートが兄とも慕うシャーキン子爵家の三男で、イステラ武術大会弓の部優勝者のアロンを代官兼留守居役に派遣している。


 それ以外にも、勇猛なイステラ国軍司令官の男爵を父に持つ第五夫人のアニエッタ。
 燃えるような真っ赤な髪と透き通るような青い瞳。お転婆でじゃじゃ馬ながら、イステラ三大美姫の一角を担う。年の割にいまだ胸が小さいのが悩みの種だが、閨房では一途にレイナートを思うしおらしさも見せている。


 次はレイナートの盟友、ル・エメスタ王国のエネシエル・ヌエンティ伯爵の妹ネーリアは第六夫人。
 答礼の旅で色々とあってレイナートに恩義を感じているエネシエルが、レイナートの元へ側室として差し出したのであった。しかし、イステラ人は側室は持てぬし、妙なところで女性にやさしいレイナートは彼女を正妻の一人にに迎えたのである。
 エネシエルがあえて側室にと言ったぐらいでその容姿は極めて平凡。典型的な貴族夫人として取り立てて特筆すべきことはないが、閨房では淫乱とも言えるほど乱れた姿を惜しげも無く晒し、レイナートを驚かせている。


 そうして、ロズトリン首長国フィグレブ卿の娘イェーシャとその従姉妹であるレイシェス、クロライネ、メイダ、シェテンティという五人のロズトリン人の妻達。彼女らが第七から第十一夫人までの座を占めている。
 彼女らも、とある一件でレイナートに恩義を感じたフィグレブ卿から、側室にと差し出された女性達である。彼女らをあくまでも客人として遇し、側室とする気のなかったレイナートの妻の座に、いつの間にか収まっていたのだから恐れ入る。
 もっとも正室がさらに、しかも五人も一度に増えて、レイナートが第五夫人までの女性達にどのような目に合わされたかは、ここではあえて触れるまい。それは聞くも涙、語るも涙……。身の危険を感じるからやめよう。
 さて、イェーシャは大の男嫌いで女性を愛する女であったが、レイナートにだけは心も体も許している。見せつけるかのように従姉妹達との痴態をレイナートの前で繰り広げ、最後にはレイナートを迎え入れるという娼婦のような一面を持っている。
 彼女らもこの数日、レイナートの渡りがないことに不満を持ち、恨みがましい訴えるような目でレイナート見つめている。


 貴族身分の正室だけでこれだけいる上に、平民の正妻としてさらに三人の女性をレイナートは侍らせている。
 王の庶子であるレイナートはリンデンマルス公爵であると同時に、亡くなった実母の身分の故に平民でもあるという複雑な立場にある。それ故平民を正妻にすることになんの遠慮もいらない。

 一人目のエレノアは女性ながら大陸一の剣士との呼び名も高い。その分女らしい体型とはお世辞にも言えず、薄い胸に小さな尻、筋肉質の身体の何処に魅力を感じているのか、レイナートは彼女を決して手放さないでいる。

 その他にもエプロンドレスに身を包んだメイドのアニスとネイリ。
 アニスはレイナートの伯母の養女。「義理の従兄妹」という訳のわからない、要するに血の繋がらない他人である。
 赤毛に丸顔、タレ目に少々上向きの鼻。お世辞にも美人とは言い難いが、レイナートにとっては貴重な古くからの馴染み。その舌っ足らずの喋り方には似ず、巧みな舌使いでレイナートを満足させ期待を裏切らない。
 一方のネイリはイステラのはるか南、リューメール出身の少女である。明るい小麦色の肌に、少年のように短くした濃い栗色の髪。いまだ十三歳ということも あってとても女らしい体型とはいえず、陰毛もまばらで生えそろってもいない。にも関わらずレイナートの正妻の一人である。
 レイナートには鬼畜の如き性癖があるのか。ネイリを見ているとそう思わざるをえないところがある。

 いずれにせよ、総勢十数人もの妻と愛人を持っているレイナートは、イステラ国内でも相当な女好き、好色な男として有名であった。
 したがって、王宮の夜会などへ出かけると、貴族達からは妬むような、蔑むような目で見られ、逆にその妻娘からは興味津々の秋波を送られてくる。

 だがレイナートにも言い分はある。
 イステラでは確かに側室を持つことが許されていない。しかし、正室は一人でなければならないという明文化された規則もない。それ故これだけ多数の女性と 契りを結び妻としたのであるが、別段自ら望んでという訳ではなかった。どころか本来のレイナートは、妻は一人であるべきという固い考えの持ち主である。
 では一体何故このような事態になったのかといえば、実はレイナートには女性に対して途轍もない弱点があった。
 それは女性の放つフェロモンに弱いということである。

「いやいや、男なら誰でもそうだ」と思うかもしれないが、レイナートの場合は特殊だった。それはあの、甘酸っぱい女性特有の匂いを嗅ぐと、レイナートは意識を失ってしまうという特異体質なのである。


 ちょっと想像してみて欲しい。
 自分の意中の男性が突然訳もわからず意識を失って倒れたら、その女性は一体どうするだろうか? 大抵は駆け寄り安否を気遣うだろう。その時もしその男性の股間が激しくズボンを押し上げているのを見たら、女性はどのような反応をするのだろうか?

 もし周りに誰もいない、もしくはその場にいるのは自分の侍女だけで、固く口止めをしたなら決して秘密が漏れないという状況であったなら?
 おそらくは頬を染めつつも意識せざるを得ず、チラチラとそこを見てしまうのではないだろうか。そうして男性が完全に気絶状態で気付かれる心配がないとしたら、好奇心からそこに触れてみたいと思わないだろうか。
 そうして今この場にいる女性達は皆、好奇心という名の誘惑に勝てなかった女なのである。
 驚くのはこの女性らの中で、レイシェスは十四歳、ネイリに至っては十三歳なのにである。
 この事実に「女は早熟」という言葉を実感出来ることだろう。
 そうでなければ、「青い果実」と言えば聞こえはいいが、いまだ身体は未成熟で女らしい体型には程遠い二人を抱くなど、鬼畜以外の何物でも……。いやいや、当人達が望んだことなのだから何も言うまい。

 とにかく女性達は誘惑に負け、レイナートのズボンを開き、そうして、股間で荒ぶる性なる剣を目の当たりにしてしまったのである。
 女性である自分には存在しないもの。それがレイナートの股間で息づいている。
 若い未婚女性とはいえ、男女の営みとはどういうものかを知らぬ訳ではない。その性なる剣が現実においてどのように用いられるのか、興味を持たない方がおかしいだろう。
 そうして恐る恐る手を伸ばし触れてみる。
 ここで女性達は完全に羞恥も見栄も、体面も何もかもを失ってしまうのである。それがレイナートの性なる剣の恐ろしいところであった。
 握った手の中で熱く、力強く脈打つ性なる剣。これを我が身体の内に迎え入れたならば……。
 不安と怖れと、だがそれを凌駕する好奇心が彼女達をして決意させてしまう。

―― 私はレイナート様の『性なる剣』の『鞘』になりたい……。

 そうして気を失い横たわっているレイナートの上に跨がり、自ら身体を沈めてしまったのであった。
 そうやってレイナートは意識を失っている間にこの女性達と関係を持ってしまった。というか襲われたというか、奪われたというか……。気付いた時には自分のものは彼女らの中に収まっていたのである。青くなったが後の祭り。
 乙女の、しかも貴族の娘の純血を奪っておいて妻にしないのか、と詰め寄られれば何も言えずに頷くしかなかった。


 だが彼女らは、自らの行いがあまりに無知で幼かったと後悔することになる。
 レイナートが気を失っている間、レイナートの股間の剣は、その凄まじい勢いが衰えることがない。しかも彼女らがフェロモンを発している限り、レイナート は目覚めることがない。したがって彼女らは自ら離れない限り、その剣に攻め続けられることになる。否、これも正確な言い方ではない。気を失っているレイ ナートが攻め立てるのではない。彼女らが自ら腰を振りその凄まじい威力を堪能しているのである。そうして、「もうダメ」と思いつつも止めることが出来な い。終わりにすることが出来ない。結局、自らも気を失うほどの大波にさらわれるまでそれは続いてしまうのである。
 もうそうなったら彼女らにレイナート無しで生きる術はない。レイナートがどれほど多くの女を抱え、夜な夜な自分以外の女を抱いていても甘んじて我慢し、己の順番を待つことしか出来なくなる。
 レイナートを迎え入れた時の狂おしくも甘美な瞬間。それが忘れられないからである。
 だが彼女らも人の子。自分以外の女がレイナートによって歓喜法悦に浸っていれば嫉妬する。羨み、妬んでしまう。そうしてそれは「魔」を呼び込むことになる。
 だからレイナートはそうならないようにと一晩に何人も相手にする。そうしなければこれだけの人数を一晩に一人ずつでは、順番が回るのに日数がかかってしまい彼女らを狂わせてしまう事になるだろう。

 だからレイナートは一晩に数人、時には一度に何人も同時に相手するのである。
 そうやってレイナートは自分の妻達の中から「魔」に魅入られる者を出さないように努めているのであった。


 だがこの数日、確かにレイナートは、セーリアを始め、皆に指摘されたように彼女らと肌を合わせていなかった。
 連日連夜彼女らと濃密な時を過ごしていたにも関わらず、突然にである。それは何故か?
 それは己の体の異常さに気づいたからである。

 レイナートが女性と睦み合う時、彼女らに手や口で、時には脚での愛撫を股間に受けた時にはレイナートはすぐに達して果ててしまう。なのに、彼女らの中で は一向にその気配が訪れない。もちろん、快感は得られている。なのにいつまでも達することなく、その凄まじい勢いを保ったままなのである。
 結果、彼女らに「もう無理、耐え切れない……、堪忍して……」と懇願されて、止めざるを得なくなってしまうのである。

―― 何故なんだろう……。

 理由のわからないレイナート。それでこの数日、女性に近づくことを避けていたのであった。

 妊娠の経験のあったセーリアを除くと、妻達ちは全員レイナートと結ばれるまでは処女であった。したがって今ひとつ、男の生理というものがわかっていな かった。それでも手や口に出されていたから、男が最後にどうなるかはわかるようになった。なので妻達はレイナートが自分の中で達しないことに申し訳なさを 感じ、なんとか中でイッて欲しいと願っている。それにレイナートの子も欲しい。
 だが怒涛のように押し寄せる快感の波に翻弄され、時には失神までしてしまい、結局その願いは叶えられずにいる。


 レイナートは我慢し続けた。自分ですることもなかった。だがレイナートは今が一番やりたい盛り。それなのに十日も我慢していよいよ堪えきれなくなった。これならもしかして中でイケるかもと思い、再び誰かを相手にと思い立った。
 それで誰に相手をしてもらおうかと思案の挙句、セーリアを選んだのであった。
 母を知らないレイナートにとってセーリアはまさに母親代わり。その包み込むような優しさについ甘えたくなるし、自らの身体を使って女体とその扱い方を文字通り手取り足取り教えてくれた。それでセーリアにお願いしようと思ったのである。
 セーリアが夜着に着替え、まさに床に就こうかという夜更けに、レイナートはセーリアの私室を訪れた。

「どうされました、レイナート殿?」

 そう声を掛けたセーリア。だがレイナートの股間が異常に膨れ上がっていることにすぐに察しがつき、侍女達を下がらせ二人きりになってくれた。
 ゆっくりレイナートに近づくセーリア。レイナートの首に腕を回して言った。

「苦しかったでしょう? 今楽にしてあげるわ。」

 柔らかな笑みを見せて言う。
 レイナートはセーリアの腰に手を回し強く引き寄せる。激しく自己主張するレイナートの股間を下腹部に感じ、セーリアの顔に赤みがさす。レイナートはセーリアに口吻しようとするが、セーリアは身を引こうと背をそらす。

「……?」

 要領を得ないレイナートにセーリアが言う。

「そのままではダメよ、出来ないわ……。」

 セーリアがレイナートの顔の下半分に視線を遣る。そこでレイナートもはっと気づき、腰に回していた手を解き、鼻から下を覆うマスクを外した。
 レイナートは女性のフェロモンを吸い込むと意識がなくなってしまう。そこで普段から鼻の穴に綿を詰めている。だがそれではあまりに見た目が間抜け。そこで薄い布で作ったマスクで顔の下半分を隠していた。
 さすがに自室ではマスクは外すが綿は詰めたままで、それこそ寝る時以外は外さない。部屋に控える侍女の放つ匂いにですら意識が遠のくことがあるからである。

 鼻の穴に綿を詰めたままのレイナートにセーリアが言う。

「それも外しておしまいなさい。せっかくの美男子が台無しだわ。それにわたくしは歳も歳だからそれほど匂わないと思うから……。」

 言われたレイナートは綿を外しズボンのポケットに仕舞い、鼻で大きく息をする。セーリアは確かに若い妻達に比べれば強い香りを放ってはいない。しかし微 かとはいえ漂う女の匂いにレイナートの頭がくらくらする。そんなレイナートを再び優しく抱きしめるセーリア。その腰に手を回しうなじに口吻するレイナー ト。
 セーリアの口から熱い吐息が漏れ、レイナートはそれを聞いて、腰に回した腕に力を込めて、グリグリと己の股間をセーリアの下腹部に押し付ける。
 そうして唇を重ね激しく貪り合う二人。やがてレイナートはセーリアを易々と抱き上げ、寝台へと運んでいく。

 寝台の上にセーリアを横たえるとのしかかるようにその上に乗り、夜着を肌蹴ながらセーリアの肢体に舌を這わせていく。
 さすがに歳の故に衰えを隠せないセーリアの肉体を、それでもレイナートは美しいと思いながら全身を隈なく舌先でなぞっていく。
 セーリアは誰憚ることなく歎声を漏らしている。レイナートがセーリアの膝を割り、股間の秘所に顔を近づけると、さすがに一瞬戸惑いを見せる。しかしレイナートは太腿を大きく開かせてその根本に顔をうずめた。
 花びらを指で掻き分けられ、濡れた花芯を舌で弄ばれてセーリアが耐え切れず言う。

「だめ、レイナート……。」

 だが言葉とは裏腹に拒む気配は見せない。

 ひとしきり舌でセーリアを攻め立てたレイナートはついに我慢が限界を超え、服を脱ぐのももどかしくセーリアの中に入ろうと試みる。
 己の中に導くべくセーリアがレイナートの孤剣に指を添えた瞬間、レイナートは一気に果ててしまった。

「あっ……。」

 レナートは目を見開きがっくりと項垂れた。
 その頭をゆっくりと撫でながらセーリアが言った。

「ずっと我慢していたのだもの、仕方ないわ。わたくしが元気にしてあげます……。」

 セーリアは体を入れ替えてレイナートを仰向きにさせ、今度は自分がレイナートの股間に顔を近づけた。
 放出したばかりで、強い匂いを発しているレイナートのそれを口に含む。指と唇と舌でたちまち元気にさせられるレイナート。
 その勢い良くそそり立つレイナートの性なる剣に満足気な笑みを浮かべ、セーリアはレイナートに跨がり自ら腰を沈め、激しく腰を振り身体を揺らし始めた……。


 結局何も変わっていなかった。
 レイナートは口や舌での愛撫には直ぐ射精してしまうのに、膣内では決して達しなかったのである。

 悄然と横たわっているレイナート。セーリアはレイナートに散々攻め立てられて息も絶え絶えになりながら、それでもレイナートの体を掻き抱き優しい言葉を掛ける。

「大丈夫よ、レイナート。いつかはきっと中に出せるわ……。」

 だが内心、そうならない方が、とも思っている。
 女性には妊娠というものがある。そうして妊娠中は身体の交わりを避けなければならない。だからレイナートが中で射精しなければ妊娠の可能性は低く、いつまでも愛を交わし合える。
 まして自分は四十も半ばの中年女。ないとは思うが、万に一つも身籠ったりしたら大変なことになる。なにせ自分は未亡人。しかも亡夫はかつての王。これが世間の知るところとなったら自分はもちろん、レイナートも身の破滅である。
 呼吸を整えつつセーリアは、レイナートの横顔を見つめてそう思うのであった。


 結局理由がわからないまま、何も解決しないまま、レイナートは変わらぬ日々を過ごしていた。

 領主であるレイナートは主城に留まっているだけにもいかず、時々城を出て領内を巡視する。
 先代の怠慢で領内は人が減り、土地は荒れ、領民は困窮していた。妻達の実家からの援助があるからといってそれに頼っていたのでは、男としての沽券に関わる。何としても自分の力で、それをどうにかしなければならないと思ってのことである。

 ある日、領内の東地区を視察した。この辺りは水不足のために砂漠化が始まっており、解決策がなかなか見出だせず苦労している所であった。
 巡視の足を伸ばし過ぎたため、この日はその場に天幕を張って一夜を過ごすことにした。
 夏とはいえ砂漠化している所は夜間は気温がぐっと下がり、肌寒さを感じるほどである。

 夜中に目を覚ましたレイナート。
 尿意を覚え、天幕を出て天幕から離れた野っ原に放尿した。
 用足しを済ませ天幕に戻ろうとすると、焚き火の辺りに見慣れぬ人影がある。不審に思いつつも近づいていく。

―― 剣を持って出ればよかった……。

 警戒しつつその人影に近づいた。
 ある程度まで近寄ったところでその人物が声を掛けてきた。

「なるほど、お前がのう……。」

「お前は誰だ!?」

 レイナートが詰問する。

「儂か? 誰でもよい……。それよりも問題はお前だ。」

「僕が? 僕の何が問題なんだ!」

 その不審人物はフード付きのローブをすっぽりと被り、人相が全く窺い知れない。ただ声からするとそう若くない男である。
 その男がやれやれと首を振る。

「何もわかっておらんようだのう……。お前が股間に持つもの。そこには古のイシュテリアの封印が施されておる。」

「なんだって! どうしてそんなことが……。」

「理由などわからん。じゃが、それは真実。このままではお前、とんでもないことになるぞ。」

「とんでもないことって?」

「世界中の女が群がってきて……。」

「まさか……。それにみんなに口止めしておけば……。」

「戯《たわ》け! 人の口に戸が立てられるか!」

「それはそうでしょうが、まさか世界中の女の人がなんて……。」

「お前は自分の異常さがわかっておらんな。」

「異常さ?」

「そうじゃ。
 女からしてみればお前と交わっても子を孕む心配がなく、いつまでも絶頂を味わい続けることが出来るのじゃ。自分からやめない限りな。
 お前に群がらないはずがなかろう?」

 それを聞いてレイナートは身震いした。
 今でさえ十数人の妻を持て余し、色々と気を使い、苦労しているのである。この男の言うようになったら、「大変」などでは済まない日々を過ごさねばならないだろう。

「何とかならないんですか!?」

「それは、封印が解ければ普通に戻るだろうて……。」

「じゃあ、どうやったらその封印が……。」

「さあ、知らんな……。」

「そんな……。何とかして下さい!」

「儂に言われても困る……。」

「じゃあ何しに出て来たんですか!」

 レイナートに突っ込まれ、男はフードの中で困ったという顔をした。

「一つ手がないわけではない……。」

「それは!?」

「お前も知っておるだろう。大陸の南西の果てにレリエルという国がある。そこへ行ってみよ。そこにはかつてのイシュテリアの術式の全てが保管されているという。あるいはそこへ行けば、お前の封印を解くための術式が見つかるかもしれぬ。」

 それを聞いてレイナートの顔が明るくなった。
 だが男は続けて言う。

「じゃが、簡単ではないぞ。
 レリエルは鎖国を敷き、余所者が入るのを拒む。他国の男がレリエルの中に入るには最低三人はレリエルの女を孕まさねばならん。それが今のお前に出来るか?
 出来たとしても、妊娠が判明するまでの間は入国はできん。待つ間にどれほど女が群がってくることか……。」

「そんな……。」

 がっくりと肩を落とすレナート。

「まあ、それでもやってみる価値はあるかもしれん。駄目なら帰ってくればいいんじゃからのう。」

「そんなこと言ったって……。」

「まあ行くも行かぬもお前次第。いずれにせよそれが『性なる剣を持つ者』の宿命じゃ……。」

 そう言うと男は忽然と姿を消した。
 目をこすって辺りを見回すが何処にもその影は見えない。

 レイナートはしばし俯き、呆然としていた。しかし何かを決意したかのように毅然と顔を上げた。

―― 行ってみるしかないか……。

 そう決意したのだった。


 この時、大陸全土を巻き込んだ、レイナートのハーレム伝説の幕が切って落とされたのであった……。
 それはまたいつの日にか語る機会もあろうかと思うが、今はここで筆を置こう。

 イステラ暦四六一年
 シュルムンド・グラモニオ ここに記す
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