遥かなる星々の彼方で

Valkyries of Lindenmars
リンデンマルスの戦乙女たち

R-15

第76話 三つ巴


 Cシフトの終了まで残り一時間、最後の定時確認作業が終わった後、各部からの報告を入力し終えたコスタンティア・アトニエッリ少佐は、イステラ連邦宇宙軍中央総司令部所属の特務戦艦リンデンマルス号の MB(主艦橋)の作戦部長席で小さく伸びをした。

 この艦の作戦部長に就任して早6ヶ月。その姿はすっかり板についている。もっとも作戦部長次席だった頃からこの席には当直士官として座っていたからそれもあるかもしれない。
 ただこの入力作業は作戦部長だから、というよりも艦長代行だからという理由が大きい。


 アレルトメイア艦隊との遭遇戦の後、リンデンマルス号において大幅な人事異動があった。殊に作戦部、戦術部、船務部においてである。
 これらの部長は栄転で皆リンデンマルス号を離れた。したがって現在の作戦部長はコスタンティア、船務部長がクローデラ・フラコシアス少佐。そうして戦術部長は陸戦科長からの昇格となるナーキアス・ビスカット中佐である。ナーキアスは副長も兼任しており今やリンデンマルス号のナンバー2である。

 ただリンデンマルス号において作戦部は特殊な存在であり、その長が艦のナンバー2と乗組員達は看做しており、そういう意味では、年齢も階級も下であるコスタンティアには何かと気苦労も多い。
 しかも作戦部長となって、その責任範囲と重さは次席に比べて遥かに広く重くなっているから尚更である。
 ただその点、ナーキアスが狭量な人物ではないので差し当たって大きな問題も起きずにいるので助かっている。


 そうして何気なくつい考えてしまうこと。それはリンデンマルス号艦長レイナート・フォージュ准将のことである。

 レイナートとコスタンティアは士官学校で同期。だが片や少佐で片や准将、3階級も違う。もっともコスタンティアの昇進が遅いということはない。どころか連邦軍全体から言っても早い方である。
 だからレイナートが着任してきた当初は興味津々だった。どれほどの功績があったのか、と。だがその理由の一端を知った時コスタンティアは怒り心頭となった。だから転属願いを出した。こんな上司の下では働けない、と。
 だが、多少なりともレイナートの過去を知ることが出来た今、転属願い取り下げが認められてラッキーだったとしか言いようがない。

 これはコスタンティアが転属願いを提出した直後にリンデンマルス号とアレルトメイア艦隊との遭遇戦が勃発したため、転属願いはリンデンマルス号の実質運用責任者であるロムロシウス・シュピトゥルス中将の手元に留まっていて、具体的な事務手続きには至っていなかったからである。

 だから本当に良かったとコスタンティアは思う。

―― だって、そうしなかったらもう2度と会えなくなってしまったかもしれないわ……。

 そう考えて思わず頬を赤らめた。
 そうしてこっそりと情報端末でレイナートの個人情報ファイルを開く。


『レイナート・フォージュ:士官学校予備校から士官学校予科を経て第470期入学、第七士官学校本科一般科卒業。最終成績、4023人中1989番。
 2473年、少尉で任官。初任地、第七方面司令部、RX-175観測基地。
 同年、大尉に昇進。第六方面司令部、第56補給大隊に異動、輸送艦S-3558艦長に就任。
 2476年、少佐に昇進。中央総司令部記録部に異動。
 同年、中佐に昇進。第五方面司令部、第8旅団に異動。駆逐艦D-12137艦長に就任。
 2477年、大佐に昇進。中央総司令部、戦術・作戦部に異動。特務戦艦SB-01(リンデンマルス号)艦長に就任。
 同年、准将に昇進』

 今は艦長のプロフィールはここまで公開されているが、昇進のきっかけ、その事由については未だ非公開のままである。それでも初めて開いた時に比べ雲泥の差である。


 これを見てコスタンティアが最初に思ったことは、レイナートは初任地と中央総司令部記録部以外はずっと艦長職にあった人、ということである。これは一般科卒業の士官としては稀有の存在ではなかろうか。
 そうしてコスタンティアの見る限り、現在のレイナートの取る采配は非常に「バランス型」である。攻守ともにソツがない。それは逆に苦手もないが得意もない、とも言えるが。
 いずれにせよそうやってのし上がってきたのだろうか? きっとそうなのだろう。

 ただ先般のアレルトメイアとの遭遇戦を除くと、公式にイステラが戦闘行為に及んでいるのは20年前の対ディステニア戦役まで遡ってしまうから、レイナートの場合はどうだったのかがわからない。レイナートがエメネリアと初めて出会った時のことは「正式な戦闘」としては記録されていないのである。
 では戦闘による昇進でないとすると、どうやってわずか4年で大佐まで昇ったのか。それは相変わらず不明だった。

 いずれにせよレイナートは有能な人物である、という意識はコスタンティアの中で確固たるものになっていた。
 同時にはっきりとレイナートに惹かれている自分も認識していた。レイナートと共に歩む未来、それすらも考えるようになっていた。


 だがその二人の将来、ということを考えると暗澹たる思いがする。
 いや、まだ2人の間に特別なことが起きた訳ではない。ただの上官と部下でしかない。向こうはこちらの気持ちに気づいてさえいないだろう。
 コスタンティアとしては一歩踏み出したい。だが踏み出せないでいた。

―― だってもし結婚出来たとしても、いえ、結婚したら確実に離れ離れになってしまうわ。

 イステラ連邦宇宙軍では、宇宙勤務者同士が結婚した場合、同一の艦艇や基地での勤務を認めない。どちらか、または両方が移動になる。それは宇宙艦艇や宇宙基地の内部で夫婦として私生活を送ることは職場の風紀上好ましくないと考えているからである。
 これが地上勤務であればそういうことはない。部署が違えば同一基地での勤務も可能である。

―― となると医監部長のようにするしかないかしら? でも出来れば子供も産みたいし……。

 医監部長エーレネ・エオリアン少佐は軍医ではなく医監部の事務武官の長である。士官学校戦術作戦科を卒業後、その高い事務調整能力から幕僚や参謀といった本来の進路をはずれ、艦艇や基地での事務担当官として実績を積み上げてきた。
 10年ほど前リンデンマルス号に着任するまでは独身だった。だが艦の医監部に配属となって運命的な出会いをした ― と本人達は思っている ― 男性と恋に落ち密かに交際を続けた。およそ8年間その交際は誰にも気取られることなく続いたが、それは離れ離れにはなりたくないという思いと、夫君の方が階級が下であった、ということと無縁ではないだろう。
 いずれにせよ夫君たる医監部の准尉が45歳を迎える時に初めて、艦内保安部経由で婚姻届を提出し周囲を唖然とさせたのだった。

「彼とは離れて暮らしたくなかったので……」

 エーレネは照れつつも周囲にそう説明した。
 そうして夫君は地上勤務となり、来年エーレネも45歳となるので地上に降りることになる。その時には夫と同じ基地へ配属となるように希望も出しているという。念願である夫婦二人での生活が出来るようにということである。
 そうまでして一緒にいたかった、一緒になりたかったというのは、それだけ互いを強く思い合っていたのだろう。
 だがその反面子供は諦めたという。45歳での初産は母子ともに危険が多すぎるという理由からなのは明白だった。


 コスタンティアは二人の結びつき愛情の深さに感動しつつも、自分は同じようには出来ない、と思っていた。

―― もしも私と艦長が結婚したとして、2人揃って地上勤務になることはないでしょうね。

 艦の主要スタッフが替わってまだ間もない。にも関わらず艦長と作戦部長がまた変わるということになったら艦内体制がガタガタになってしまうだろう。したがって当然2人の内どちらか ― そうしてそれは女性である自分の方が可能性が高いと思う ― 異動になると考えているコスタンティアである。
 それはせっかくのゴールインが離れ離れの暮らしのスタートということになってしまうことにほかならない。

 だからレイナートに気持ちを打ち明けられない。自分の思いを伝えられないでいる。
 だが一方で「出遅れてなるものか」という思いも持っていた。


「おはよう、作戦部長」

 コスタンティアは背後から声を掛けられた。それも当面の最大のライバルと思われる女性、エメネリア・ミルストラーシュ少佐からである。

「おはよう、対アレルトメイア戦術アドバイザー」

 柔らかな笑みを浮かべるエメネリアにコスタンティアも笑顔で返した。だが2人共顔は笑ってはいるものの目は笑っていない。


 まだコスタンティアがレイナートに対し恋愛感情を抱いていない時は2人の関係は良好だった。互いにファーストネームで呼びあう程に。
 だが今の2人は互いに相手の役職でしか呼び合わない。面と向かって口論するとか、まして鞘当をし合うということもない。だが2人の視線が交錯する時、必ずやその場の空気が冷える ― 否、凍りつくと言ってもいいかもしれない ― ことが周囲には実感出来る。それがMBのスタッフ達の心胆を寒からしめていた。


 コスタンティアが思うに、身分制度のないイステラにおいても貴族の令嬢というのは男性に対し、まさに「高嶺の花」として、名状しがたい感情を湧き起こさせるのではないだろうか。
 ましてエメネリアは美貌の持ち主でスタイルもいい。だけでなく聡明で性格も悪くない。朗らかな笑顔を絶やさず親しみやすい女性である。そういう女性を男性は好むのではないだろうか?
そんな彼女と競い合って果たして自分は勝てるのだろうか?
 もちろん易々と負けるつもりなど毛頭ないが、だからといって簡単に勝てるとも思えない。

 その場は何事もなくエメネリアは自分の席に着いた。
 コスタンティアもファイルを閉じ、レイナートがMBに姿を表すのを待った。

 作戦部長就任後、コスタンティアは基本的にCシフト固定である。したがって定時ワープの時にしかレイナートと顔を合わせる機会がない。だがエメネリアはレイナートと同じく常にAシフト。
 それがコスタンティアの焦燥感を煽ることこの上なかった。


 エメネリアが祖国アレルトメイアを捨てイステラへ亡命することを決心するのには散々悩み抜いた。
 アレルトメイア皇帝の娘として生まれ、国内最有力貴族の養女となり、軍の中枢に配属となった。その自分が内戦状態にある祖国を見限っていいのか。その思いからである。
 だが国に戻ること自体がもはや無理だとしか思えなかった。そんな自分に何が出来る?
 悩んで悩んで悩み抜いた挙句、であれば思慕を抱く男性の祖国の為に働こう。断腸の思いでそう決心したのである。

 元々、アレルトメイア軍とイステラ軍の士官交換派遣プログラムは、実父と養父の思惑があったとはいえ、自分が提唱したものだった。

―― あの時の少尉に会いたい。

 その思いもあった。

 自分の生まれ、取り巻く環境の故に誰もが自分とは一線を画して接する。だから真の意味での友人、心からの信頼関係とか腹を割って話せる、という相手がいたことがない。
 だがそれは当然の事かもしれない。自分も不敬罪が適用される皇族の1人だったからである。

 だが何もない辺境を観光して楽しめという養父を通して実父から受けた理不尽な命令。その時出会った1人の男性。
 このことが自分の人生を大きく変えたと言っていい。エメネリアは心底そう思っている。

 彼は異国の軍人に対する節度ある態度は取ったが、それ以上の事、例えば腫れ物にさわるような態度はなかった。それは身分制度のない国の人間だからだったのだろう。それはエメネリアにとっては衝撃的とも言える初めての経験だった。
 この経験がなければ士官交換派遣プログラムにそこまで入れ込んだかどうか。我ながら甚だ疑問だった。

 そうしてやっとの思いで再会を果たしたが、彼は驚異的とも言える昇進を果たし階級は自分を追い越していた。
 会えない気持ちが心の中で彼を多分に美化していたことは自分でも認める。だがそれ以上に彼は素晴らしい人物に思えた。
 だから亡命を決めた最終理由は彼とともに歩んでいきたい。その思いだった。

 だが一方で目の前に強力なライバルがいる。
 自分のように身分とか家柄で出世したのではない、実力でのし上がってきた女性である。しかも同性の自分から見てもその美しさにはちょっと太刀打ち出来ないほどで、その上、その有能さは比肩しうる者がいないとさえ思える。

―― 正々堂々勝負して私はコスタンティアに勝てるだろうか?

 エメネリアは不安をさえ感じていた。

 しかもコスタンティアはリンデンマルス号の行動を左右する作戦部の長。ある意味で艦長の最も信頼の厚い立場にいる。対アレルトメイア戦術アドバイザーという、非正規のポジションにいる自分とは根本からして違う。
 事実、コスタンティアとレイナートが何かを相談している時には近寄りがたい雰囲気になる。もちろん職務上から言って割り込めるはずもないことは承知している。だが2人の間に流れているのはそれだけではない。上官と部下というだけでは言い表せない何かが存在しているとしか思えない。それは大きな焦燥感をエメネリアに与えている。

 だがレイナートに自分の気持ちを打ち明けることには躊躇してしまう。それはイステラの軍規では夫婦が同一の職場にいることが許されない、ということがあるからである。
 もしレイナートと結婚出来たとしても離れ離れになっては意味がない。かと言って恋人のまま人目を忍んでというのは、自分の倫理観が許さない。愛し合っているのなら正々堂々振る舞うべきである。人目を忍ぶ付き合いなど不貞行為と何が違うのか、と思ってしまう。

―― 人を好きになることがこれほど厄介な事だったなんて思ってもみなかったわ……。

 もっとも貴族社会ではもっと小うるさい事が多かった。それからしたら確かにイステラは自由の国のはず。でも思うことが思うようにならないのは一緒だとしか思えなかった。


「おはようございます」

 新たな声がした。

「おはよう、船務部長」

「おはよう」

 コスタンティアとエメネリアが口々にクローデラに挨拶を言う。クローデラはそれに微かに頭を下げて船務部長席に着いた。

 ただ、艦内時計はイステラ連邦の主星トニエスティエの自転周期に合わせたCST(宇宙標準時)を使用しているが、そもそも艦内に昼夜の別はない。だから「おはよう」とか「こんばんは」という言い方が正しいかどうかには疑問がある。だが何も言わずにいるというのもおかしいから慣用的にそういう挨拶をしているのである。


「さてと……、そろそろ宇宙服を着ないとならないわね」

 そう言ってコスタンティアは立ち上がった。
 もう間もなく 〇七三〇(マルナナサンマル)(7:30)になる。〇八〇〇には定時ワープが行われるから第三種配備に備えなければならない。

 MBの後方宇宙服の収納スペースに向かい、自分のサイズに合う宇宙服を着込むコスタンティア。そこにエレベータの到着を知らせるチャイムが鳴った。

「艦長が艦橋へ!」

 エレベータの扉が開くと陸戦兵が飛び出し、自動小銃を捧げ銃にして声を張った。

 すでに戦術部長席に着いていたナーキアスが立ち上がって大声を発した。

「艦長に敬礼!」

 MBに CIC(戦闘指揮所)OC3(作戦室)IAC(情報解析室)の全スタッフが立ち上がって敬礼する。
 それに対してレイナートはいつも通りに穏やかな表情、落ち着いた声で応じた。

「諸君、ご苦労です。業務を再開して下さい」

 その言葉にスタッフは着席して自分の仕事を再開する。
 一人コスタンティアはレイナートのもとに進み姿勢を正した。

「艦長、毎時の点検項目は全て入力済です。ご確認を願います」

「わかりました。見ましょう」

 そう言ってレイナートは艦長席のコンソールを操作する。

 艦内体制に関わらず各セクションは1時間毎に各種点検を行う。そこで異常があった場合、当然、その原因の究明、修復が図られる。そうしてそれは全て記録に残される。
 艦長はその記録を確認し、定時ワープの実行に問題がないかを判断することが定められている。

 しばらく画面を見ていたレイナートが小さく言った。

「どうやら問題はなさそうですね。
 艦内に第三種配備を発令、ワープ準備」

「艦内体制を第三種配備に移行、ワープ準備に取り掛かれ」

 ナーキアスが副長権限でスタッフに通達。艦内に警報が鳴りワープへと動き出した。そうして準備発令29分後にワープが実施された。


「ワープ完了。艦内に異常はありません」

「艦の周囲、5000万km圏内にも異常ありません」

 どこからともなく安堵の溜息が漏れる。毎度のこととはいえ、ワープは乗組員全員に大きなストレスを与えているという事実は否めない。だがワープをしなければ宇宙に出る意味が無いこの時代、好むと好まざるとにかかわらずワープは実施するしかない。


 無事に定時ワープとその後の確認作業が終了しレイナートが第三種配備の解除を命じたところで、いつの間にかクローデラがレイナートの傍らにいた。たった今まで船務部長席にいたのに、である。

「艦長、コーヒーをいかがですか?」

 分身の術でも使ったのか。さもなければ奥歯のスイッチを舌で押したのか。そうとしか思えない早さだった。

―― また、出し抜かれた!

 コスタンティアは唇を噛み締めた。
 シフトの切り替え時に必ずと言っていいほど、一瞬の隙を突いてクローデラがレイナートにコーヒーを勧める。
「船務部長の少佐ともあろう人物にお茶くみをさせるのか!」と、フェミニストが文句でも言いそうな事態だが、これはクローデラが進んでしていることでレイナートがやらせている訳ではない。

―― 地道にポイントを稼がないと……。

 クローデラは内心そう思っていた。

 クローデラは船務部長となってからBシフトに固定になった。したがってコスタンティアと同様、1日3度の定時ワープの時にしかレイナートと顔を合わせることがなくなっていた。ナーキアスがBとCに交互に入るので、艦長代行は毎シフトごとではないがそんなことはどうでもいい。否、それはそれで軽んじていい事柄ではないが、とにかく最重要課題はレイナートの心象を良くし、ライバルに抜きん出ること。そう考えていた。
 何しろ対アレルトメイア戦術アドバイザーのエメネリアはその職務上、レイナートと常に同じシフトである。これは絶対に不公平だとしか思えないが如何ともなし難い。
 ではどうするか?
 クローデラにすれば自分の仕事ぶりは認められているはず。それは実感があった。だがそれ以上のことについては自信がなかった。そこで「塵も積もれば山となる」作戦を実行しようと考えたのだった。

「……ありがとう」

 レイナートもそのあまりの素早さに面食らったものの好意はありがたく受けた。

「こちらにお持ちしますか?」

 艦長席が飲食禁止であるのを知らない訳ではない。それでも敢えてそう言ってみるクローデラである。

「いや、いいよ。向こうへ行く」

 そう言ってレイナートが立ち上がった。
 クローデラはその後ろで従う形だが、コーヒーサーバーの前ではスッと移動して手早くコーヒーを艦長専用カップに注ぐ。

「どうぞ」

「ありがとう」

 そのあまりにミエミエな行為に誰も何も言えない。逆にこうまで露骨ならかえって清々しいくらいである。


 とは言うものの、その様子をエメネリアとコスタンティアは厳しい目つきで睨みつけていて、ナーキアスの方はと言えば頭を抱えていた。

―― よりによって、なんで自分がMB勤務になってからこういう事態になるんだ? 

 陸戦科長の時はMBでの戦術部長代行というのはほとんどなく、それは空戦科長と砲雷科長が行っていた。緊急時の攻撃準備には陸戦部隊よりも艦砲、艦載機の方が優先されるという事によるからだった。
 それもあってMB内でこんな恋の鞘当てが行われることになろうとは副長就任時は露知らず。今では胃の痛む毎日である。

―― いつになってもストレスで胃に穴が開くのがなくならない、というのはこういうことか。

 ついついボヤきたくなるナーキアスだった。

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