とある駐留艦隊基地の司令官室。 「それで用件は何かな、大佐?」 司令を訪れた大佐は思い詰めた表情だった。 「お願いがあります、司令」 「お願い? 何だろうか? 随分と難しい顔をしているが、そんなに重大事かね?」 「はい、いいえ……」 大佐が言い淀む。 「とにかくそのお願いとやらを聞かせてもらおうか。そうでなければ可否は判断しかねる」 司令がそう言うと大佐は突然叫ぶように言った。 「お願いです、小官を降格して下さい!」 司令はその必死の形相にもだが、言葉にも驚かされた。 「降格? 何でまた急に? 余程の失態でも犯したのかね?」 「いえ、違います」 そう言って大佐は小脇に抱えていた情報端末を手に取ると、司令に突きつけるように画面見せた。 「お願いします。中佐だったら申し込めるんです! 一生に一度あるかないかのチャンスを掴めるかもしれないんです!」 画面に表示されているのはVOL隊の新規募集の案内メールだった。 『Valkyries of Lindenmars隊。新規募集のお知らせ。 「たとえ申し込んでも採用されるかどうかはわかりません。でも今のままでは応募すらできないんです! この女性大佐は目に涙を浮かべつつ司令に訴えたのである。 レイナートがシュピトゥルス大将に願い出たのは、コスタンティアを始めとする女性6名の艦長職解任だった。 「本気か、フォージュ中将? まだ部隊を立ち上げたばかり、というよりまだ編成段階ではないか?」 「ええ、わかってます。ですがこのままでは部下が仕事の煩雑さと量に潰されかねません。 「それはそうだが……」 「それでなくとも新兵を多く抱えた状態で最新鋭艦の運用実証試験まで行うんです。 レイナートはそう訴えたのである。 「それもわかるが……、だが、解任した者はどうするのだ?」 「全員、参謀とします」 「おいおい、通常艦隊ですら、艦隊参謀は3名までとされているのは知らん訳ではあるまい?」 「ええ、知ってます。ですが部隊の特異性を鑑みれば参謀がそれくらいいても問題はないはずです。 「言ってくれるな……」 「とにかく部隊編成は新しい艦長らに任せて、彼女らには部隊の行動計画案の策定に動いてもらわないと本当に身動きが取れません」 「そうは言うが、新しい艦長はどうするつもりだ?」 「公募します」 「おいおい……」 「新兵と旧リンデンマルス号の乗組員を除くと、全員を志願で集めるんです。艦長もそうであっても問題がないのでは?」 「本気で言ってるのか? そんなことをすれば軍は天地をひっくり返したような大騒ぎになるぞ!」 「それでもこの部隊を成功させるには必要なことなんです」 レイナートは最後まで譲らない。 「わかった。上に掛け合ってみよう。だが期待はしてくれるなよ」 「それは部隊が失敗しても構わないということですか?」 もうシュピトゥルス大将としては呆れることしかできなかった。 「……全く、貴官のその押しの強さはどこから来るんだ?」 「別に無理難題を言っているつもりはありませんが?」 「どの口が言うか……」 「小官としては与えられた任務を確実に着実に遂行したい。それだけです」 「わかった、もう言うな」 そうして押し切られたシュピトゥルス大将は、直ぐに関係する軍上層部を説得すべく奔走させられたのである。 そうして1週間後にはレイナートの要望を許可する旨が通達された。 だがそれは彼女たち、特に艦長を拝命していた女性らには少なくない衝撃を与えた。 「解任……ですか」 「納得できません!」 口々に不満を漏らしたのだった。 「諸君らには個別の艦長としてではなく、参謀として部隊全体に目を配って欲しいとうのが真意です。 そこでレイナートは言葉を切り、沈痛な面持ちで言ったのである。 「正式な辞令の発令までには3日あります。どうしても不服な場合は、それまでに正式に異議を申し立てて下さい。 だがそれは単なる職の解任だけではなく、部隊からの除名にもつながるということを意味するのは明らかだった。 レイナートにコスタンティアが尋ねた。 「質問をよろしいでしょうか?」 「何なりと」 レイナートが応ずる。 「この決定は、小官らの能力不足に由来すると解すべきなのでしょうか?」 そこでレイナートはっきりと首を振った。 「いいえ、決してそうではありません! 「たかが、ですか?」 コスタンティアが言う。それは暗に女性にはその「たかが」が果てしなく遠いものだという恨み言を含んでいた。 「そうです。『たかが』です。男であっても艦長を経験することはできても、艦隊参謀を経験するということは、その難易度の高さは十分知っていると思います。 1隻の責任者と複数艦艇の運用にまつわる責任では、その重みは当然違う。 「まあ、こういう言い方は大変失礼なことかもしれませんが、イステラ軍初の戦闘艦艦長に貴官らの名が記され、イステラ軍が存在する限り未来永劫それは変わることはありません」 それで我慢しろ、というのは酷なことだとは思う。だが部隊を成功させるのにこの人事は絶対に不可欠と信じて疑わないレイナートだった。 そこでコスタンティアは頷いた。 「わかりました」 そうしてその類まれな美貌に満面の笑みを浮かべた。 「コスタンティア・アトニエッリ大佐、謹んで拝命します」 そうして次々と皆がその人事を受け入れたのだった。 その様子を見てモーナは密かに胸を撫で下ろしていた。 「そんな! 一旦持ち上げておいて叩き落とすなんて酷です!」 「だが貴官も現状のままではマズイと思うだろう?」 「それはそうですが……」 「このままでは部隊編成に翻弄されて、実際に部隊が動き始めようという段になって、何も準備できていないということになりかねない。それこそいい笑いものだよ。 「……」 モーナにもそれはわかる。 「それはともかく、なんとしても部隊は成功させなければならない。それは名誉や恩賞といった俗な理由からじゃない。 「わかりました。 冷めた正確というか、冷静なモーナは切り替えも早い。 「新艦長募集の原案づくりだ」 「了解しました」 そう返事はしたものの、これが公表された時の彼女らの落胆が目に浮かぶから、何とも複雑な気持ちだったのである。 そうして正式な辞令の発令を受け、新たな艦長募集のメールが対象となる人物に送付された。 「これだけでいいんでしょうか?」 その応募要項作成段階でモーナは疑念を口にした。 「これだけ、というのは?」 「ですから能力開発プログラムの受講履歴とか、そういうものを付随させなくてもよいのかということです」 軍の能力開発プログラムというのは広範囲に及ぶ。そうして宇宙勤務に必要なものは26項目あるとされ、宇宙勤務を希望する兵士は少なくとも1年掛けて、この26項目の初級プログラムを受講しなければならない。 ところで、艦載機に限らず航空機のパイロットには航空機操縦資格を取る義務があったが、宇宙艦艇の艦長となるには特別な資格というものが実はなかった。だからといって無制限ではなく、宇宙勤務に必要とされる26項目の内、8項目について上級を、それ以外にも人心掌握を始めとする、管理職に必要な5項目のプログラムを受講していることが望ましいとされていた。 ―― 無料で学べるんだから、やらない手はないよな……。 このことがあったからリンデンマルス号の艦長候補に挙げられたというのは紛れもない事実であり、そうでなければ今のレイナートはなかったと言える。 そういう経緯があるのでレイナートとしては受講済みである必要はないのではと考えていた。 「それはいいんじゃないかな。まあ、あればあったで評価はし易いけどね。もしも受講済だけと限定したら、応募者が集まらないかもしれないし」 「それは……、ありえますね、残念ながら……」 女性は艦長になれないという暗黙の不文律があることには誰もが気づいている。故に女性士官の中には初めから諦めてそういったプログラムを受けていない者も多いのでは、ということも考えられた。ただでさえ兵の募集に苦労してきたということがあるから、条件を厳しくしすぎると、艦長に関しても楽観はできないどころか絶望的になるとまで考えていたのである。 「ところで貴官はどうかな? もしも応募できる立場だったら応募するかい?」 レイナートにそう聞かれたモーナは即答した。 「すると思います」 モーナはレイナートの副官であるため応募を端から考えていなかった。だがもしもそうでなかったら、やはり申し込んだであろうということは疑う余地はない。 「確かに今までの軍では考えられないことですから、そこにチャレンジすることに躊躇う理由がありません」 「だろうね」 レイナートも納得する。 「そういう意味からすると申し訳ないね。その機会を私が奪った形になるんだから……」 重ねてそう言ったレイナートにモーナは首を振った。 「いいえ、何も問題ありません。小官は閣下の副官であることに誇りを持っておりますので」 そう言われたレイナートは思わずうろたえた。 「そ、そうか。いや、ありがとう……」 だがモーナは続けて言った。 「あっ、ですが勘違いはしないで下さい。 ツンとすました顔でそう言ったモーナだったが、なんだか色々と台無しにされた気分のレイナートである。 ところで、そういう過程を経てメールが送られた訳だが、受け取った側の反応は様々だった。 「ねえ、今朝来ていたメール、見た?」 「メール? あぁ、VOL隊のね?」 とある部署の中佐同士のそんな会話から始まった一幕。 「何て書いてあったの? また人員募集?」 「そうよ……って、中身見てないの?」 「だって、見ても仕方ないじゃない」 「何で?」 「だって、私には関係ない話だし……」 確かに佐官の募集はごくわずか。しかも各艦の部長職を募るものだが、旧リンデンマルス号乗組員から就任が決まっているものが多いのでその欠員補充的意味合いが強く、本当に数名しか募集していなかった。しかも実戦経験が重視されているということもあって、長く地上勤務にいた者には応募を躊躇させるものだったのである。 「それが、今度のはそうでもないわよ」 「どういう意味?」 「だって今回の募集は艦長だもの?」 「艦長? 嘘、本当?」 「ええ」 「本当に本当? だって、あり得ないじゃない!」 「そうよね。だから私も応募しようかどうしようか悩んでるのよ」 「それって本当に公式のものなの?」 「一応はそうみたいだけど……」 「なんだか、怪しくない? もしかして詐欺メールとか」 「それはないとは思うんだけど……。ただ、内容が内容だけに、どうも信憑性がね……」 「そうよね、艦長だものね。女性を艦長に、しかも公募で集めるなんて聞いたことがないわ……。 そこへ新たな中佐が会話に加わった。 「あら、あなた達、まだ応募してないの?」 「あら、お早う。そういうアナタは申し込んだの?」 「もちろんよ」 「疑わなかったの?」 「疑うって何を?」 「詐欺とか、そういうの……」 「まさかある訳ないじゃない? だって発信元のサーバーはまさに中央総司令部だったもの」 「そっかあ、本物なんだ……」 「それで申込んだのね?」 「ええ。ついさっき返信を受け取ったわ」 「えっ、嘘!? 何て書いてあったの?」 「面接を行うから希望日時を知らせろって、面接実施予定日の載ったカレンダーが添付されてたわ」 「本当に!?」 「ええ」 とまあ、こんな光景がイステラ連邦軍のあらゆる基地の至る所で見られたのである。 「朝から賑やかね、何の話で盛り上がっているの?」 大佐にそう問われた中佐たちの内、VOL隊の艦長募集に申込んだという中佐が自らの情報端末のメールを大佐に見せたのである。 「これです。この艦長募集に申込んだんです」 「艦長募集?」 大佐は初耳だった。これはメールが、条件の該当する大尉から中佐までにしか送られていなかったから当然のことであるが、それを見せられた大佐の反応は、これまたマチマチだった。 「そう。スゴイじゃない! 頑張ってね」 と素直に部下を励ましたのは、大佐になって数年が経ち、そろそろ将官の椅子が現実に見え始めた女性。悔しがるというのは表面的にはなかった。 ―― もう今更だものね……。 自分にそのチャンスがないというのは残念と思わないでもないが、夫や子供を残して1人単身赴任で宇宙艦隊勤務というのは、年齢的なこともあり、どう考えても無理であるからスッパリと諦められた。 だがこれが大佐になってまだ1~2年、という女性は見せられた情報端末を手に固まっていた。 ―― どうして、今になってこういう話が出てくるの! なぜ私にはこの話が来ないの! 「栄転だよ」と言われて、宇宙勤務から現職に転属した。確かに艦長相当職と同等かそれ以上の仕事を任されている。だがそれは決して艦長職そのものではない。 ―― もしあの時この話があれば! そのショックの大きさは余人の計り知れないものだった。 そうして大佐は悩み抜いた挙句、決心をする。 ―― そうだ、降格を願い出てみよう! 大佐になって2年程度なら、まだ日が浅いと言えるだろう。ならば降格を願い出ても受け入れてもらえるかもしれない。 そう考えて己の所属する部署の最高責任者に降格を願い出るに至るのだった。 ところで、艦長の募集を行った当のVOL隊は自分たちが軍にどのような影響を及ぼしたかについて、全く気にも留めていなかった。 イステラ連邦宇宙軍中央総司令部総司令長官室。舞台は制服組トップの執務室だった。 冒頭、口火を切ったのは最高幕僚部長である。 「だから女性だけの部隊など反対だったのだ! 見てみろ! 全軍の佐官級に動揺が走ったではないか!」 憤怒の形相で最高幕僚部長が声を荒げた。 「現在までのところ、降格を願い出た女性大佐の数は724名。その全員がもちろん却下されております。 「これだから女は……」 最高幕僚部長が憮然と呟く。 「それは結構な数ですな」 作戦部長がまるで他人事のように言う。 「ええ。まだ業務に支障の出始めている部門はないようですが、病欠が長引けばいずれ問題となるでしょう」 人事部長は冷ややかに言う。 「それで? その女性大佐たちに何か共通点でも?」 作戦部長の問に人事部長が答える。 「ええ、はっきりと存在します。 「ということは?」 作戦部長の重ねての問に人事部長は淀みなく答える。 「全員が大佐になって3年以内、ということです」 「これは女性たちの間に艦長志望が根強い、ということですかな?」 戦術部長もそう言うが、まるで他人事のような口調である。 「さあ、そこまでは。それを分析するのまでは小官の責任範疇外ですから」 人事部長は素っ気なくそう答える。 「そんなことはどうでもいい! それよりも事態をどう収集させるかだ。 と極論を吐く最高幕僚部長である。 「それは無理な話ですね。 今度は経理部長が淡々と言い、人事部長も続けた。 「それだけの数の大佐を一度に退役させたら、それこそ軍組織がガタガタになっていしまうでしょう。人事配置の面からも絶対に避けるべき事態ですね」 「そういうことを言ってるのではない! 最高幕僚部長の鼻息は荒い。 「最高幕僚部長は責任と仰るが、こんなのは想定外でしょう? 想定外と言えば、女性士官たちはそこまで現在の軍のシステムに不信感を持っていたのか。そのことの方が重大な問題だと小官は考えますが?」 戦術部長はそう言うとさらに最高幕僚部長は声を荒げた。 「何が問題だ! 貴様は女が最前線で敵と戦うのがいいと言うのか!? この場にフェミニストでもいれば大荒れになりそうな発言である。だが発言の冒頭部分に関して言えばこの場に居合わせる全員 ― もちろん皆男性である ― も首肯できる。女子供に戦争をさせたいなどと考える輩は存在しなかったのである。 「一言よろしいでしょうか?」 そう言ったのは第七管区方面司令である。モニタ越しに発言を求めてきた。 『我が第七方面司令部では、毎日部隊が出撃し戦闘を行ってます』 「そんなことは知ってる! だから何だと言うんだ!」 最高幕僚部長は第七方面司令にも噛み付く。 『出撃した部隊が無傷で還ってくることなどありません。そうなれば当然生き残った部隊の再編をしなければならない。 「何だと! 何が愚かだと言うんだ!」 『ですから女性指揮官を認めないということですよ。お陰で部隊再編の時に、できの悪い、使えない男を指揮官にしなければならないんです。これでは部隊を犬死させるだけです』 「それは自分で何とかしろ! それが方面司令の役割だろうが!」 『ええ。ですからお願いしてるんです。他の管区方面司令部から人材を回して下さい』 それを聞いて真っ先に異を唱えたのは第四方面司令である。 『無茶を言わないで下さい! うちからはもう三個師団も回してるんです。お陰で手一杯でどうにもならないっていうのにまだ部隊を回せと言うんですか!?』 第四管区はイステラ連邦が支配する棒渦巻銀河の腕の最先端部分を担当する。この区域は連邦最大の広さを持ち、敵が銀河の外から回り込んで攻めてくることも想定しているため、その重要度は高いとされている。 だがそれは第二、第三、第五も同じである。第一管区をぐるりと取り囲むこの三つの管区方面司令部は、やはり銀河の外からの外敵侵入に備えるのが役目である。 『ウチから少しでも回せればいいのだが』 そう、沈痛な面持ちで言ったのは第一方面司令である。 『だが承知の通り、政府がそれを許可しない。申し訳ないと頭を下げることしかできん』 アレルトメイアと交戦に至った後、各管区方面司令部からの増援部隊が第七管区に派遣された。だがこの時、第一方面司令部からの増援派遣に関しては政府が許可しなかった。 「もし敵がこのトニエスティエに攻めてきたらどうするつもりだ!」 そうならないために増援を派遣するということが政府にはどうしても理解できないらしい。 『とにかく使える人間を寄越していただきたい。最高幕僚部長殿は打ち出の小槌をお持ちかもしれないが、あいにく小官にはそういう便利なものの持ち合わせがありません。 第七方面司令がそう言うのを最高幕僚部長が遮った。 「だからそれは自分で……」 『我々が実際に戦争をしてるんだ! 後方でふんぞり返っている……』 第七方面司令の怒りが爆発した。だがさすがにそれは暴言と取られても仕方がない発言だけに途中で遮られた。 「第七方面司令は少し控えるべきだな。 総司令長官がこの時初めて口を開いた。 「仰る通りですね」 戦術部長がそれを受けて言う。 「この先、戦況が好転し速やかな終戦に至るとはとても思えません。 そこで最高幕僚部長が再び言う。 「だが、ディステニアの時はそうはならなかったではないか! 今度も……」 そこで呆れたといった表情で人事部長が言った。 「最高幕僚部長は一体いつの話をされているのでしょうな。 戦術部長はさも当然とのごとく頷く。 「仰る通りです。 「その通りです」 人事部長が頷く。派閥という点では中立を保っている人事部長だが、この場では理のある方に与していると言えた。 イステラにおいて一時期、ハイ・スクールの成績不良者や軽犯罪者の更生という意味を兼ねて兵役に就かせたことがあった。これは兵員数の確保という目的の上で行われたのだが、結果は質の悪い兵隊が大量に増えただけ、という惨憺たる状況に終わった。 「ならばもう議論の余地はないでしょう? 違いますか?」 戦術部長が全員を見回した。 すると第一管区方面司令が体の底から絞り出すような声で言った。 『仕方がないでしょう。前線への女性新兵や女性指揮官の配置は遅かれ早かれ必要になることだと思います。ならばまだ時間に余裕のある今のうちに検証すべきはしておくという、VOL隊本来の目的を優先させるべきだと小官は考えます』 「貴様、裏切るのか!?」 最高幕僚部長が怒気も露わに第一方面司令を責める。だが第一方面司令は怯むことなく続けた。 『閣下、これは時代の要請なのです。誰にも逆らえません』 「わしは認めんぞ! 断固として反対だ!」 だが、誰も最高幕僚部長の発言に首肯する者はいなかった。 そうして総司令長官が重々しく述べたのである。 「最高幕僚部長の意見は正式に記録される。 1名を除いて全員が深々と頷いた。 それはイステラ軍の歴史始まって以来の決断がなされた瞬間だった。 |